エクモカー開発の背景
ECMO(体外式膜型人工肺)は、患者の体内から血液を取り出し、酸素を加え再び体内に戻す装置で、新型コロナウイルスの重症患者にも広く使われています。新型コロナウイルスの感染拡大により、ECMOを使った治療が必要になるケースや、近隣の病院にECMOの空きがなく遠くの病院まで患者を運ぶケースが相次いでおり、ECMOを装着したまま患者を長距離搬送することができるエクモカーは必要不可欠です。
千葉大学病院ではECMO患者の受け入れの際に医療チームを派遣してきましたが、重症患者の安全な搬送にはより装備の充実した車両が必要だと考えました。また、昨今の地震や台風災害におけるDMAT出動経験から、災害時の活動にも対応できる車両の必要性を認識しておりました。そこでこのたび日本財団と千葉銀行からの支援を受け、ECMOを必要とする患者やDMAT出動のための専用車両を導入することとなりました。
ベルリングでは、消防・救急車両の企画・開発を通して、一人でも多くの命を救うというミッションを掲げていることから、このエクモカーの開発に挑戦しました。
新型コロナウイルスの感染拡大によりエクモカーの需要は高まっていますが、今回開発した車両は、千葉大学病院が大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場へ駆けつけるDMATでの運用も視野に入れた、汎用性の高い設計になっております。
エクモカーの特徴
・ポイント①:出動現場で救命活動が可能に
今回開発したエクモカーは、重症な患者を安全に搬送するためにモニタリング機器を配置し、緊急時には360度から治療ができるようスペースを確保しています。
また、簡易陰圧装置を備え、コロナの感染患者にも対応しています。
患者の搬送に加えて、ドクターカーとして出動したときには、開胸や開腹手術ができるようライティングにも工夫をしています。出動現場で救急室さながらの救命活動を行うことができます。
- マイクロバスタイプはトラックタイプに比べて、一般的には車内空間は狭くなるが、今回は車内のレイアウト設計を工夫することで、診療空間を確保することに成功。
- 室内照明を多数設置し、どの角度からも均一に照射できる構造とすることで手術や処置中のストレスを解消。
- ベッド周囲の動線に配置するシートを跳ね上げ式にすることで活動性アップ。
・ポイント②:日本初の国産ECMOストレッチャーを搭載し、より円滑な救命活動を実現
日本初の国産ECMOストレッチャーは、従来のものに比べ、医療機器の配置調整などカスタマイズの自由度が高くなっています。千葉大学病院で導入したストレチャーは国内で使用されるECMO機器に対応するスペースを確保しつつ、患者に対して救命処置が可能な高さに調整することで、様々な現場で円滑に救命活動を行える設計になっております。
従来のECMOストレッチャーは海外メーカーのものが主流となっているためコストが高く、エクモカー導入のハードルが高くなっておりました。しかし今回、オーエックスエンジニアリングが、自社の車いすの開発技術を活用することで、従来のものと同じような素材で構成されたECMOストレッチャーを、半分のコストで導入することを目標に開発しております。
エクモカーを導入する千葉大学病院では、削減できたコストで救命活動に必要な他の医療器具(心電図モニター・半自動除細動器・電動吸引器・自動心臓マッサージ器、等)の購入に充てることができました。
- ECMOストレッチャーはモジュール部品の組み合わせにより、医療機関の要望や搭載車両に柔軟に対応可能。
・ポイント③:DMAT(災害派遣医療チーム)での運用も視野に入れた車両設計
DMATの出動の際は、災害現場に長期間滞在することもあるため、救命活動に必要な資機材を積むスペースをどれだけ確保できるか、何名乗車できるかが重要となります。また移動も長距離に渡るため、隊員の負担をなるべく減らす意味で、乗り心地も重要なポイントです。エクモカーは、それらの現場のニーズに寄り添って開発されました。
車体は、主流となっているトラックタイプではなく、あえてマイクロバスタイプを使用しているため、走行性能が高く、また移動中の揺れを抑え、隊員と患者の負担を軽減することができます。
- ECMOストレッチャー及び搬送用ストレッチャーを搭載し、最大2名の患者搬送が可能。
※運転席2名、患者2名、医療者5名の計9名乗車可能。 - 酸素配管系統においてボンベ8本(通常車両は2本)装備可能で、万一のリスクを回避できる。
- 災害地への派遣時にも十分な電源供給が行えるようバッテリーを3台搭載(車両メイン・サブバッテリー・緊急バッテリー)。
- 今後、車両を起点とした情報伝送を可能にする通信設備を導入できるスペースや電源設備を確保。
今後の展開
ベルリングでは、昨年の11月に発表した新発想の救急車「C-CABIN」を皮切りに、今回はエクモカーを企画・開発することができました。
今後も、消防車の企画・開発で培った知見を活かし、消防本部だけでなく医療機関まで対象を広げ、現場の課題から逆算したものづくりで、業界の常識を打ち破る商品を生み出してまいります。ベルリングは、消防・救急車両の企画・開発を通して、一人でも多くの命を救うことを目指します。
ベルリングについて
消防現場の潜在ニーズから、軽量化技術を活かしたCFRP(カーボン)製「ハイルーフ」を企画開発、消防車の新しい利用形態を創造してきました。消防車で培った知見を応用し、新型救急車C-CABINを開発。現在は救急現場の課題解決にも取り組んでいます。
救急・消防のハードウェアベンチャーとして、「人に役立ち、未来をつくる。」という理念のもと、より多くの命を救う手助けとなるプロダクトの創出に挑戦しています。
URL :https://www.belling.co.jp/
千葉大学病院について
千葉大学病院では、高度医療を提供するという大学病院の役割をしっかりと果たすべく、診療をおこなっております。この2年弱の間、多くの皆様が緊張と不安、さまざまな困難に向き合いながら日々を過ごされてこられたと思います。
私たち医療機関も、未知のウイルスとの闘いに当初は防戦一方でしたが、「コロナの治療も通常診療も、どちらも続けていく」という方針のもと、いかに安全に患者さんを受け入れ、治療・ケアするか、感染制御のスペシャリストたちを中心に、すべての職種がそれぞれの専門分野で工夫を重ね、力を発揮してまいりました。一時はやむなく手術や外来を制限せざるを得なくなり、患者さんやご家族にもご負担をおかけしましたが、感染拡大の波を何とか乗り越えてこられたのは、皆様のご理解とご協力があったからこそ、と感謝申し上げます。
これからも、「千葉大学病院なら安心して自分の家族を診てもらうことができる」と心から思っていただける病院を目指して、患者さんに良質な医療を提供してまいります。