40以上の事業を有し、新規事業が次々に立ち上がるDMM.com。スピード感あふれる成長を支えている一つの要因が、積極的なM&Aです。直近1年では約3社を買収しています。 AIから農業まで、事業領域を問わず仲間に迎え入れてきましたが、M&Aの意思決定はどのようにして決まるのでしょうか? M&Aを担当するCOO室の長南佑輔さん、DMM VENTURESを担当する森弘慶さんにお話を伺いました。

AIから農業まで、ニッチ領域を狙う

—— 40事業以上のサービスを有するDMM.comですが、AIから農業まで幅広い事業領域に進出し、その手法としてM&Aも積極的に行われています。M&Aに関しては、どのような戦略や方針で運営されているのですか。

長南 佑輔(ちょうなん ゆうすけ)COO室 事業戦略グループ グループリーダー
慶應義塾大学卒業。日本アジア投資入社後、ブラザー工業グループとのCVC、事業再生ファンド、DFJ-JAIC(現DNX VENTURES)等の運用に携わる。退職後カカクコムに入社し、経営企画室においてM&A戦略の策定および実行、ゼンリンとの資本業務提携等を主導。2015年Viibar入社、管理担当執行役員として、電通及び日本経済新聞社との資本業務提携を実現。2017年より現職。M&A、DMM VENTURES、採用、子会社支援などに従事


長南:大前提として、そもそもDMM.comには全社的な戦略がありません。「ミッション・ビジョンを掲げない」のが逆説的に戦略になっている節があります。

とはいえ、「ニッチ領域で勝負する」という一定の軸はあります。主軸事業になっている動画配信やFX、アミューズメントが好例です。比較的ニッチな領域で、かつ市場規模がそれほど大きくないところで高いシェアを持つ事業構造になっています。

今後のM&Aに関しても、勝てる事業領域を機動的に選択していくのが基本的な方針だと思っています。

一方、直近1年を振り返ると、新規事業領域への進出以外の軸でのM&Aもありました。2020年1月にグループ入りした、深層学習を中心とした人工知能技術(画像認識、生成、言語処理など)を活用したソリューション提供を行っているAIカンパニー・Algoageです。松本勇気(DMM.com CTO)が推進し、ここ3年ほど取り組んでいたDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する観点で、グループインしていただきました。

残る二つ、消防車両の企画・開発を行う「ベルリング」と農業スタートアップの「ファーマリー」は若手経営者×ニッチかつ新規事業領域でのM&Aでしたね。


 

—— これまでのM&Aの中でも、「Algoage」だけがやや特殊なケースになるのでしょうか。

長南:それ以前の過去10件ほどのM&Aに関しては、どちらかといえば既存事業関連領域で買収することが多かった傾向にあります。たとえば、金融領域は「DMM.com証券(当時SVC證券)」の買収から新規参入し外為ジャパンからの事業承継により拡大していますし、「DMM オンラインサロン」は自社で開始し競合を買収することでシェアを拡大しています。ざっくり分ければ、新規領域への進出と既存領域のシェアの拡大、2つの目的で競合を買収するのがこれまでのM&Aでした。

ただ、明確な戦略があったわけではありません。各事業部のメンバーの意志を尊重し、時流を捉えて、会長の亀山が柔軟に意思決定をしてきたのが実情です。ただ、直近の1年は明確な意図を持って行っているので、M&Aのスタイルそのものが変わってきています。


 

パッションと算盤の交差点を探す

—— 具体的にはどういったフローで投資をしたり、M&Aに至るのでしょうか。

長南:案件のソーシング(ターゲット企業の選定と交渉)からDD(投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)、交渉、契約書作成、PMI(買収後の統合プロセス)まで、COO室で一気通貫して行う形をとっており、分業にはしていません。

またM&Aの第一ステップは、やはり声をかけるところからですね。告白しないと想いは伝わらないじゃないですか。まずは、繰り返しアプローチします。


 

—— ソーシングはどういったチャネルで行われていますか。

森 弘慶(もり ひろよし)COO室 / DMM VENTURES
2011年より株式会社Livestylesにて顧客開拓や大手企業とのアライアンス提携業務などに従事。2015年株式会社リクルートジョブズ入社後、企業の採用支援、人事制度設計などの業務に従事。2019年合同会社DMM.com入社、子会社の経営支援や新規事業立ち上げを経て、現在はDMM VENTURESでのベンチャーへのマイノリティ出資やM&A業務にも従事。


森:弊社メンバーと接点がある方から「お話できませんか?」とリファラル経由でお問い合わせをいただく場合と、HPの窓口から直接問い合わせいただくパターンがあります。件数は少ないですが、M&A仲介会社経由で問い合わせをいただくこともありますね。基本的には、この三つの経路です。

ただ実態としては、これまでにM&Aが成立したのは、リファラル経由のケースが大半です。しかし今年は、弊社から気になる会社さんにお声がけするアウトバウンド方式にも積極的に乗り出しています。DMM VENTURESなどベンチャー企業との接点となる窓口も増えているので、M&Aに限らずスタートアップとの関係性が濃くなってきています。


 

—— カジュアルに話をしにきてから、M&Aに発展することもありますか?

長南:あります。たとえば、村中悠介(最高執行責任者 COO)に事業の相談をしに来て、その場で「一緒にやりましょう」と話をすることも。ベルリングはそのパターンでした。


 

—— アウトバウンド方式でソーシングすることも増えているとのことですが、どのような企業にお声がけしているのですか

長南:会長はいつも「何か持ってこい」と言っているくらい新しい事業への興味が強いので(笑)、個人の趣味といいますか、関心領域に応じてドアノックをしに行くこともあります。関心領域とは言っても「パッションと算盤」の両方が合致する領域で会社を探しにいくイメージです。

その際は、メンバーが直接やりとりする場合もありますし、役員レイヤーに「どういった会社を買収したいか」をヒヤリングして、そのリストを元に当たっていくこともあります。


 

—— ドアノックをしてからの具体的なフローはどうなっていますか?

長南:最終判断を下すのは会長ですが、執行役員及びCxOのうち、誰か担いでくれる人がいないと進まないんです。「ケツ持ち」という言い方はおかしいかもしれませんが、まずは事業に責任を持ってくれる社内の役員などを探します。

ただ、こちらもある程度は各役員の好みを把握しているので、「この案件なら、この人かな」と当たりをつけて、「これ面白いので一緒にやりませんか」と提案。「いいね」となったら一緒に検討し、会長に持っていく流れです。


 

—— 1社の買収が完了するまでのスピード感はどのくらいですか?

長南:およそ3~4ヶ月くらいですかね。取締役会があるわけではないので、プロセスは非常に少ないです。

買収額は、将来性を評価する

—— バリュエーション(投資先企業の価値計算や、事業の経済性評価)に関してはどのような考え方で算定されるのですか?

長南:バリュエーションの方法はいくつかありますが、未上場のベンチャーの場合は資産評価が難しいので、将来性を評価しています。一般的には「DCF法」という、事業が生み出す将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法を用います。

あとは当然、VCさんなど外部投資家がすでに投資をしていれば、ステークホルダー同士で合意ができる金額なのかどうかのバランスだと思います。


 

—— VCが入っている場合はどうやって計算するのですか?

長南:わりと「えいや」で決まることが多いです。もちろん事業計画を引っ張り、投資回収がどのくらいの期間でできるのかの算定はします。たとえば、IT業界であれば、動きが早いので、標準的には5年以内程度で回収が見込めるかどうかを一つの目安としています。製造業であれば、もう少し長い時間がかかるので、「7年程度見込んでもいいよね」といった議論をします。


 

—— 正解はないけども、ある程度のセオリーに従いつつ意思決定をされていると。

長南:特に10~20人ほどの従業員を抱えるベンチャーの将来価値は、正確に算定できませんから。もちろんする努力はしますよ。事業計画を作成して、「一緒に達成しましょう」といった話はしますし、それを買収条件に織り込んだりもします。ただ、なかなかその通りにはならないのが実態かなと。


 

—— 起業家からすれば、なるべく高いバリュエーションで売りたいと思うのですが、「いやいや高すぎる」といった議論もあるんですか?

森:もちろん価格交渉の議論も生じます。そういった場合には、双方が納得ができる形を提示する努力をして、折り合いをつけるしかないですね。たとえば、100%の株式取得だけではなく、マジョリティである51%の株式を取得し、後で残りの49%を買い取るといった利益還元の方法を考えたりすることはあります。

まずしっかりと過半数の経営権を持ち、我々も経営にコミットする。買収時点では不確実性があり評価しきれなかった事業計画でも、たとえば2~3年後、実際に成長できたかによって、改めて残りの49%を成長が実現した際の評価を上乗せして買い取るようにすることで、創業者・我々、双方の利益が達成できる形が出来上がります。


 

与える、任せる、失敗を許容する

—— 現在、注視されている領域はありますか?

長南:僕の興味関心でいうと、「中長期で稼ぎ続けられるか」「事業としての持続性があるか」は意識しています。もう一つあるとすれば、社会貢献性が高いかどうか。

現在、時代の価値観が清く正しい、倫理的な方向に行きつつあるのではないかと感じています。消防車を製造販売するベルリングは、そうした観点もあって買収した一社です。

森:最近だとレガシーな領域は気をつけてみるようにしています。まだ技術の進歩による革新が起きていない領域でこそ、技術が掛け合わされることで新しい価値を提供し、シェアを獲得できる会社が出ると思いますので。

あとは、コロナの影響や景気後退の影響を受けやすい、たとえばホテルや不動産業などの領域で、経営に助けが必要な会社が出てくると思っています。そのタイミングであれば、弊社の財務的な体力と見合うかつ、テックの強みを生かして改善できるのではないかと考えています。


 

—— M&Aの対象としては、ベンチャーに限ってはいないのですか?

森:限りません。なぜなら、時価総額が10億円の会社でも、100億円の会社でも、私たちの想いは変わらないから。「それならば、大きなチャレンジをしてみよう」と思っています。

—— それぞれの経験を踏まえ、改めてDMM.comならではのM&Aや出資の特徴をお教えください。

長南:DMM.comほどM&Aやマイノリティ出資に積極的な会社は少ないと思っています。そのため、買収交渉をしていても、競合することがほとんどありません。かつ、事業家にとって一番良い環境が揃っていると思います。

やはり上場していると四半期に一度利益開示をしないといけないので、そこの予実を合わせなくてはなりませんし、減損の判定もすごく厳しい。つまり前提として、上場企業の仕組み自体が、なかなか事業を中長期で育てていくのに合わない実情があるんです。

「オープンイノベーション」についても、ベンチャー側と大企業側の論理は違います。たとえば資本業務提携後、大企業がベンチャー側に「2人割いてよ」とお願いしたとします。20人しかメンバーがいない組織であれば1/10に相当しますし、キーマンを送ったら1/10どころじゃない割合になってしまい、本業が止まってしまうことすらある。大企業からすれば「たった2人でしょ?」と思っても、ベンチャーからすればクリティカルだったりしますよね。

長南:一方、うちはベンチャーから何かを取ろうと考えていません。考え方は至極シンプルで、まずは与える。あとは経営責任を問うだけ。「まずはとにかくgiveして良い環境をつくるので、それで成果を出せないのであれば、あなたの責任ですよね」というのが僕らの姿勢です。

“新規事業創造の楽園”を目指して

—— 実際に転籍することもあるんですか?

長南:はい。「口説いてもいい」と言っているんです。ただ、どちらにフルコミットするかは本人が決めることですから。繰り返しになりますが、まずは「give, give, give」で、とにかく提供する。結果は後で応えてください、と。コミュニケーションはすごくシンプルなんです。


 

—— 失敗しないためのgiveは惜しみない一方で、それ以外は基本的にはフリーで任せると。

長南:あと、失敗に対する許容度がめちゃくちゃ高い点もセールスポイントかもしれません。買収したある子会社を例に話すと、今はすごく良くなっていますが、過去はずっと失敗をし続けていました。

普通の会社であれば「もう投資するのはやめよう」と損切りされていたはずです。でも弊社では「社長のアイツは天才で、まだ可能性がある」と投資をし続けた。それもあり、彼は「会長に恩返ししなくちゃ」といつも言っています。失敗を許してもらっていることを、彼らも理解しているんですね。こうした関係性はとても魅力的だと思います。


 

—— 成果が出ないケースではどのように介入していくのですか?

長南:まずはアドバイス。ただ、起業家の方も失敗しないと分からないので、どうやって小さく早く失敗させるかは重要だと思っています。プロダクトの問題も組織の問題も、早く失敗させて、方向修正を自主的にやらせることが大事です。逆に失敗する前から「あなたは失敗するから絶対にこの通りにしなさい」と言っても反発するだけなので、この加減は難しいのですが。

社長に対するコミュニケーションと、ナンバー2に対するコミュニケーションと、現場レベルのコミュニケーションを段階的に設けています。


 

—— 最後に、DMM.comにグループ入りする魅力についてメッセージをいただけますか?

長南:「中長期で事業に専念できる環境が、ここにはある」ことが一番だと思います。必要なものは言えば与えてもらえる環境は魅力かなと。

森:調達一つとっても、ベンチャーにとってはすごく足かせになると思います。メンバーが10人しかいないベンチャーの社長がずっと調達アポに出る。すると、2週間とか1ヶ月、事業が止まってしまいます。弊社にグループインすればそうした苦労は絶対になくなります。あくまで事業に専念し、事業の成長角度を上げられると思います。

僕個人としては「新規事業創造の楽園」をつくりたいと思っているので、事業創造に取り組みたい人は大歓迎です。

 

構成:長谷川 リョー(モメンタム・ホース) 写真:高橋 団