DMM.comにジョインした代表たちに“ここだけの話”を聞く連載シリーズ「DMM式M&A」。今回は、2017年1月に仲間入りしたnana musicの文原明臣代表にインタビュー。
お金を理由に夢を諦めた過去を持つ文原代表は、「nanaの挑戦だけは、絶対に諦めたくなかった」と話します。
資金調達に奔走し、パニック障害を発症しながらも、夢を実現するために走り抜いてきた。——スタートアップ経営のリアルを、余すところなく語っていただきました。

地球の裏側の人と歌いあうその日まで

—— まずはnana musicの創業背景と、運営する事業についてお伺いさせてください。

文原 明臣(ふみはら あきのり) 株式会社nana music 代表取締役 社長
神戸高専機械工学科卒業。
19歳の時にF1の世界に惹かれ、プロのドライバーを目指し、スーパーカート、フォーミュラへとステップアップするが、夢を断念。その後、2011年に音楽×ITを用いたよりよい音楽の在り方を構想し、nana music Inc.を創業。2013年4月にはnana musicの日本法人である株式会社nana musicを設立し、米国法人から日本法人へ本社移管。2017年nana musicをDMM.comにバイアウトし、グループにジョイン。現在に至る。


文原:nana musicの創業は、「音楽とインターネットで世界をつなぎたい」という、僕のビジョンが原点にあります。ビジョンが定まったのは、2010年1月に発生したハイチ地震のために歌われた『We Are The World 25 For Haiti』を聞いたとき。世界中のさまざまな地域のミュージシャンがコラボしていている姿に衝撃を受け、自分のつくりたい世界が生まれたんです。

そこで着想したのが、スマホを世界とつながるマイクと捉え、音楽で世界中の人とコラボレーションできるサービス「nana」です。ユーザーがスマートフォンで自身の歌声や楽器演奏を録音し、投稿する。ユーザー同士で録音した音を重ね合わせたり、他のユーザーの投稿にコメントをすることで、ユーザー同士のコミュニケーションが生まれていくというものです。

当時から今まで変わらず、地球の裏側に暮らす人々と一緒に『We Are The World』を歌い合う未来を夢みています。


 

—— 起業の背景には、文原さんの強烈な原体験があったんですね。DMM.comにグループインするまでの流れについても、お話を聞かせてください。

文原:起業したのはいいものの、とにかく苦労の連続でした。まずは、シリーズAの資金調達。起業初期は孫泰蔵さん率いるMOVIDA JAPAN(現:Mistletoe)にエンジェル投資をいただけたのでスムーズに漕ぎ出せましたが、その資金が底を尽きる寸前になってもプロダクトが完成しておらず、身動きが取れなくなってしまったんです。業務委託で開発を依頼していたエンジニアのマネジメントを怠ってしまい、リリース直前になっても、ただの一行もコードが書かれていなかった、ということもありました。

たまたま個人投資家の方に投資をいただくことができ、その危機を脱してサービスをリリースすることはできましたが、初期はやはり、ユーザーが集まらない。「危機を脱した」とはいっても、あくまでも息継ぎをしただけであり、状況は回復しなかったんです。結局創業メンバーも一人、また一人と会社を去り、残ってくれた創業メンバーもnanaへのモチベーションが大きく下がってしまった。資金もみるみる減っていき、絶望と表現するのが正しい状況だったと思います。


 

—— そんな過去があったんですね。どのようにして、体制を持ち直したのでしょうか。

文原:自腹でカードを切り、なんとかして生き延びていました。しばらく資金難に苦しみ、「今月末に引き落とし予定のサーバー代が払えない」という期間が10ヶ月続いたんです。

ただ、そんな苦労のなかにあっても、少しずつユーザーが増えていました。それだけが、唯一の希望でしたね。
僕は過去に、モータースポーツのレーサーになる夢を、お金を理由に諦めたことがあります。だから、今回もお金が理由で夢の実現が絶たれてしまうことだけは絶対に避けたかった。パニック障害を発症するなどてんやわんやでしたが、もう意地でしたね。首の皮一枚でいいからつながろうと、事業運営の傍らで投資家を回り続け、まとまった資金を調達することに成功しました。

僕個人のクレジットカードは3枚ダメになってしまいましたが(笑)、必死さが身を結び、倒産せずに済んだ。あの地獄をくぐりぬけられたことが、今につながっていると思います。


 

M&Aの背景「結局最後は、人でした」

—— DMM.comにグループインする以前は、IPOやM&Aなど、出口については検討されていたのでしょうか。

文原:漠然とIPOを目指していましたが、基本的にはサービスをグロースさせること以外考えていませんでしたね。

相も変わらず、地球の裏側に暮らす人々と一緒に『We Are The World』を歌い合う未来をひたすらに夢みていました。


 

—— DMM.comにグループインする意思決定は、どのようにして行われたのでしょうか。

文原:ちょうど資金調達に動いていたのですが、これまでの投資家はほぼエンジェル投資家の方々で、「僕の夢に張ってくれている」というパターンがほとんどでした。しかしその当時の調達は、フェーズ的にも大きな金額が必要になり、VCの方々とメインに話していました。

当たり前ですが、VCはキャピタルゲインを得るビジネスモデルなので、「頑張ってるね」では済まされません。つまり、投資を受けることで、短期的な収益化へのプレッシャーが強くなる懸念もありました。すると、僕の描く世界観から「nana」が離れてしまう可能性も十分に考えられるため、正直悩んでいました。

そんなとき、以前から親交のあった前社長の片桐さん(片桐孝憲氏)からご連絡をいただき、M&Aについてお話をいただいたんです。「とりあえず、awabarに来てくれ」と言われて六本木に向かうと、そこには亀山会長も同席していました。

事業や現状について話しをした上で、正式にオファーを受け、お返事までに30日ほどお時間をいただいた上でグループインを決めました。ただ、葛藤がなかったわけではありません。


 

—— 詳しくお話を聞かせてください。

文原:それまでは、プロダクトを世界に広げていくことができるなら、どんな環境に飛び込んでもいいと思っていたんです。しかし、いざM&Aのオファーを受けてみると、独立して事業を運営できなくなる未来に、少し不安を感じてしまったんです。

今振り返ってみれば、「全部自分でやりたい」というエゴが先行していただけなのですが、自分の描く世界をつくるためには、大企業の傘下に入ることが最善手ではないように感じてしまったんです。


 

—— そこからどのようにして気持ちが変化したのでしょうか。

文原:nana musicの既存投資家であり、僕がメンターとして慕っている小笠原治さんのアドバイスが決め手になりました。彼は僕に「君は音楽で世界をつなぐために、nana musicを立ち上げたはず。その夢を最速で実現することだけを考えればいい」と声をかけてくれ、肚落ちしました。

DMM.comだったから、受け入れられたのもあります。短い期間でしたが、片桐さんや亀山さんとお話しさせていただくなかで、間違いなく信頼を置ける人だと思えたことが大きかったです。

たとえば、ロックアップは一応ありますが、「それ自体に意味はないよね」というのが片桐さんや会長の基本思想です。「当人のやる気がなくなったら、契約で縛っても意味ないよね」と、達観されている。経営陣が基本的に性善説なところも、彼らとなら一緒にやっていけると思えた点です。結局最後は、人でしたね。


 

夢想家であり、商売人であれ

—— グループインから3年が経ちましたが、これまでを振り返り、DMM.comにジョインするメリットについてお伺いさせてください。

文原:まず、ファイナンスの不安が解消されたことが何よりのメリットです。資金調達にあくせくしていた頃は、現場を離れて投資家を回る必要があり、プロダクトや組織をみる時間がありませんでした。つまり、課題すら見つけられない状態だったんです。

しかしグループインを契機に、もっと内部の課題に目を向けられるようになった。プロダクトの質も、組織体制もグッとよくなりました。

また、非常に自由度が高いと感じます。M&A以前は独立して運営できるか不安を感じていましたが、基本的にはやりたいようにやらせてもらえる。大企業にM&Aされると、「傘下として動く」ことを強いられたり、何をするにも根回しが必要なケースが多いという話も聞くので、その点は本当にありがたいと感じています。


 

—— 逆にデメリットを感じることがありますか?

文原:デメリットというデメリットはないと思いますね。強いていえば、これまではすべての意思決定を自分の一存でできていましたが、形式として承認を取らなければならないことがあるくらい。とはいえ、信頼して任せてくれるのがDMM.comのスタイル。意思決定に指図を受けたこともなく、僕としては本当にありがたい環境です。

ただ、相性はあると思います。亀山会長は、商売で会社を大きくした方です。つまり、「外部から資金を調達し、赤字覚悟でバットを振って、仮にダメでもナイストライ」という、いわゆるスタートアップライクな思想ではない。しっかり利益を出すことが求められることは、頭に入れておいたほうがいいと思います。


 

文原:今もそうですが、僕はアーティストへのリスペクトと憧れを持って、「nana」を立ち上げました。つまり、そこにマーケットがあるからサービスをつくったのではなく、自分が価値を感じるサービスを社会に提供したくて、「nana」が生まれています。しかし、それだけでは起業家として未熟だということを、DMM.comにグループインして実感しました。

世界観を大事にすることはもちろんですが、しっかりと利益を出し、永続的に事業を継続することはもっと大事。そうでなければ、そもそもやりたいことができなくなってしまいます。亀山さんの商売人精神のもとで働くことで、その意識が強くなり、起業家として一皮向けられたのではないかと思いますね。


 

音声を超えてつながるサービスへ

—— nana musicの、今後の展望についてもお伺いさせてください。

文原:もっとたくさんの人に「nana」を使ってもらうために、音の編集・加工機能を強化していきます。「スマホでここまでできるんだ!」という驚きと共に、自分の音楽作品にこだわれる環境を提供したいんです。

また、音声だけにとどまらない音楽の魅力を届けていく予定です。 たとえば、「歌ってみた」文化と「書いてみた」文化のコラボレーション。音からインスピレーションを得てイラストをデザインしたり、またその逆も然り。現在は音の重ね録りをするアプリですが、機能を拡大すれば、今度はMVがつくれるかもしれません。音声を超えたサービスを目指し、機能を拡大していきたいと思っています。


 

—— そうした世界観をつくるにあたり、どのような人材を募集されているのでしょうか。

文原:やはり優秀なエンジニアの方が必要です。とくにCTOのポストが空いているので、経営に参画しながら、エンジニアリングをリードしてくれる方をお待ちしています。

誰かのつくったものに参加して盛り上げていく、“ニコニコ動画の雰囲気”といえば、僕のイメージが伝わりやすいかもしれません。誰かのイマジネーションが、誰かのインスピレーションになって、創作が連鎖していく。それをものすごい高いクオリティで実現したいんです。

DMM.comにグループインして、目指すゴールに向かう足取りも早まってきました。「nana」に少しでも興味を持ち、僕と一緒に走ってくれるメンバーの方は、いつでもご連絡をいただければと思います。

 

構成:オバラ ミツフミ 写真:清水舞