DMM.comは2018年10月、テックカンパニー化を推進すべく「DMM Tech Vision」(以下、Tech Vision)を打ち出しました。連載「DMM Tech Visionの現在地」では、Tech Visionの発起人であるCTO・松本勇気が、社内のキーパソンと対談。テックカンパニー化の現在地を探っていきます。

第3回は、本部全体の売上規模が1,000億円を誇るEC&デジタルコンテンツ本部より、本部長の山本弘毅とその技術を支える小島法夫が登場。鼎談を通じ、概念としての「Tech Vision」がいかにDMM.comの事業やサービスと絡んでいるのかを紐解いていきます。

売上1,000億円を誇る事業部組織

—— まずは、EC&デジタルコンテンツ本部の本部長である山本さんに、事業部の概要をお伺いします。

山本 弘毅(やまもと ひろき)合同会社 DMM.com執行役員 EC&デジタルコンテンツ本部 本部長/動画配信事業部 事業部長
1981年生まれ。2007年入社。動画配信事業の営業担当を経て、2011年より事業責任者を務める。その後、PS4向けサービスやVR動画サービスを立ち上げる。2015年より電子書籍事業責任者を務め、2018年より物販事業やレンタル事業等を含めて、ECとデジタルコンテンツ事業の統括責任者になる。


山本:EC&デジタルコンテンツ本部は、動画配信や電子書籍などのデジタルコンテンツ事業や、物販/レンタルなどのEC事業など、8つの事業部と子会社1社で構成されています。また、本部内の横断組織としてプロモーションやデザインなどを担当する6つの部署もあり、総勢で500名弱の組織になります。

今年度の売上規模としては、本部全体で1,000億円程。物販やレンタル、デジタルコンテンツなど、創業時から運営している歴史ある事業が多いのが特徴です。


 

—— 山本さんと小島さんの入社経緯と、DMM.comでのキャリア遍歴を教えてください。

山本:私は、動画配信事業の営業職として入社し、その後動画配信の事業責任者、電子書籍事業の責任者を経て現在に至ります。今の規模から比較すると、当時は100分の1ほどの人員規模でした。現在38歳ですが社員番号は13番なので、かなり古株になりますね。


 

小島 法夫(おじま のりお)EC&デジタルコンテンツ本部 General Engineering Manager
インターネットサービスプロバイダ、製造業ベンチャーで様々なシステム開発を経験した後、2014年に入社。検索エンジンのリプレイスやビッグデータ基盤の立ち上げを経て2017年から現職。EC&デジタルコンテンツ本部の開発責任者として8つの事業部を担当している。


小島:私は2014年に入社しました。もともとずっとエンジニアで、ファーストキャリアははISP(インターネットサービスプロバイダー)を提供する会社です。その後、製造業のベンチャーに入ったのですが、リーマンショックの影響で転職せざるを得ない状況に。一社を挟んで、DMM.comに転職しました。

そもそもベンチャー企業に転職したのは、大きなチャレンジがしたかったから。「その夢はもう叶えられないかもしれない」と思ったこともありましたが、DMM.comはベンチャー気質のある企業です。再び夢を叶えるチャンスがあると感じ、転職を決めています。


 

—— 入社してみて、「大きなチャレンジがしたい」という夢は叶えられていますか?

小島:そうですね。転職した当時、会社に対して「いい意味で完成形じゃない」印象を持っていました。

当社は2018年にDMM.com社(営業と企画)とDMM.comラボ社(開発)が合併して今に至りますが、合併前は受発注構造に近かったため、開発がリリース後のグロースまで担当することが難しかったんです。開発の目標が、リリースになってしまうこともありました。

私がEC&デジタルコンテンツ本部に異動したのは、そうした体制から、開発サイドとビジネスサイドが一体になって事業を大きくしていく体制へと、変革をしていた時期。そこに自分の経験を活かして貢献でき、現在もその改革を推進しているところです。


 

—— DMMグループ全体において、EC&デジタルコンテンツ本部がいかなる位置付けにあるのでしょうか。

松本 勇気 (まつもと ゆうき) 最高技術責任者(CTO)
2018年10月11日より合同会社 DMM.com CTO(最高技術責任者)に就任。
2018年8月まで株式会社Gunosyにて執行役員 CTOおよび新規事業開発室室長。
Gunosy創業直後に入社。これまでニュース配信サービス「グノシー」「ニュースパス」などの立ち上げから規模拡大、また広告配信における機械学習アルゴリズムやアーキテクチャ設計を担当し、幅広い領域の開発を手がける。新規事業開発室担当として、ブロックチェーンやVR/ARといった各種技術の調査・開発を行う。2019年5月よりDMM GAMES CTOを兼任。(本日はリモートで参加)


松本:EC&デジタルコンテンツ本部は、DMMグループの中で“テクノロジーが一番活きる組織”だと思っています。名前に「デジタル」と冠していることからも分かるように、事業の全てがインターネットビジネスです。扱うサービスも電子コンテンツ系が多いので、テクノロジーの活きる場面が非常に大きい。かつ、山本がいうように、売上が1,000億円規模になるので、会社にとっても大きな割合を占める事業になっています。

そこに対して、テクノロジーでレバレッジをかけることで大きな経済効果が見込めます。そのためにデータ本部を構築したり、横軸の支援組織を拡大しているところです。DMM.comが今後より発展していくためには、このチームがより強い組織になっていく必要があると思っています。いわば、テックカンパニーへと向かう礎になるチームです。


 

—— 松本さんがDMM.comのCTOに就任されてから、組織はどのように変化したのでしょうか。

小島:「何のために技術を使うのか」が明確になったと感じます。松本が発表した「DMM Tech Vision」には4つのバリューが掲げられており、そのうちの二つに「SCIENTIFIC(科学的)」と「AGILITY(敏捷的)」があります。

「SCIENTIFIC(科学的)」とはつまり、事業でも開発でも、数字をみながら科学的に解明していこうという意思表示です。「AGILITY(敏捷的)」とは、失敗を許容する姿勢。システムはリリースすることは怖かったりするものですが、リリースをして何かミスがあったとしても、すぐに戻せる形にする。そうすることで、失敗を恐れずにどんどんチャレンジができる組織を目指しています。

こうした考え方を体現するためにも、昨今のモダンな技術を使う必要がある。現在は松本就任以前に比べ、しっかりと技術の目的を理解した上で、技術選定や新しいチャレンジできるようになりました。


 

—— 組織の中にいても、エンジニアのマインドが明確に変わったと感じますか?

小島:多くのエンジニアが数字を意識するようになったと感じます。

先日もこんなことがありました。開発の規模が大きいサービスを複数の部署で運営しているのですが、AチームのリリースがBチームのシステムに影響を与えたんです。それに対し、「ここがおかしいんだけど」という会話が数字をベースになされていました。数字が共通言語になってきていることを感じた瞬間です。


 

—— これらの変化は、松本さんも感じられていることですか?

松本:口酸っぱく「ファクトを見て動こう」という話はしていて。人間なのでどうしても「失敗したらどうしよう」と意思決定を渋ってしまうケースが起きる。だからこそ、「しっかり事実を見て向き合おう」と特にマネージャーレベル以上のところにそうした考え方を浸透させていったことで、大きく変わってきたと思います。


 

—— Tech Visionの浸透が伺えるエピソードですね。他にも組織の変化を感じる場面はありますか?

山本:小島が言うように、松本がCTOに就任する以前は、開発サイドとビジネスサイドに少なからず分断があったように思います。しかし繰り返しメッセージを発信したことで、両サイドの目線が近くなってきましたね。開発メンバーも売上や各種KPIの数字への関心度が上がってきていると感じています。また新卒や中途を問わず、入社するエンジニアも事業に興味のある人が増えてきましたね。


 

エンジニアリングが事業を伸ばす

—— 「DMM Tech Vision」を掲げたことで、組織以外にも変化がありましたか?

山本:データを活用したレコメンド施策を実施しことで、前年と比較しレコメンド経由の売上が60%程上昇しています。また、事業部長レイヤーがしっかりデータに向き合おうとしていて、SQLを勉強し始めるなど、データを扱うこと、細かな改善を継続的に行ったが標準化してきていますね。

 

松本:開発速度も以前と比較して上がってきています。これまでは、ディレクターがいて、事業部長がいて、調整したものをエンジニアに下ろして開発する……といったスタイルが多かったのも事実。でも今は、リーダー自らが「事業にどう貢献すればいいか」「どう改善するか」を考えて行動するようになっている。マインドセットに変化が起きたことが大きいと思います。


 

—— 現在改革の真っ只中だと思いますが、松本さんが山本さん・小島さんのお二人に期待されていることはありますか?

松本:これからも、会社としてエンジニアリングが事業を伸ばす姿を見せていきたいと思っているので、それに関しては、オブラートに包まず何でも言ってほしいです。僕は対等に議論するだけで十分だと思います。そのなかで、一人一人が活躍していけば、会社のいろんな事業がより変わっていくと思いますね。


 

スタートアップとは違う選択肢へ

—— 最後にお三方が考える、事業や会社の目指すべき未来についてお聞かせください。

小島:先ほどレコメンドが話に挙がりましたが、今後も事業の全てのところに自動化を展開していきたいと思っています。それによってサービスが勝手に成長していくシステムをつくれたら最高ですね。

 

山本:私はプログラムを1行も書けないので、私ではなくエンジニアたちがよりエンジニアリングで事業に貢献出来るようになっていってほしいです。売上や従業員数も多く責任が重いと思っていますが、まだまだ組織面での改善点があるため、より強固な組織体制にしていかなくてはいけないと思っています。

個人としては、さらなるDMM.com社の成長のために今ある事業以外の新たな事業にもチャレンジしていきたいです。

 

松本:スタートアップライクでありながら、スタートアップではない選択肢になっていきたいと思っています。この会社で立ち上げるからこそ多種多様な新規事業がうまくいく土壌をつくりたいですね。結果として、いろんな経営者が生まれてくる会社になったら嬉しいです。

 

文:オバラ ミツフミ(モメンタム・ホース) 写真:つるたま