教育、水族館、サッカークラブ。——領域の異なる40以上の事業を展開するDMM.comで、ほぼ全ての事業を管理・掌握している最高執行責任者(COO)村中悠介。
連載「建前なしの事業部談話」では、村中が各事業部の事業部長(メンバー)と対談。事業運営の実情について、建前なしで赤裸々に語っていきます。
今回は、DMM VENTURESの森弘慶が登場。キャピタルゲインやシナジーの追求だけではない、新しい形のベンチャー投資を行う背景と、今後の展望について対談しました。

キャピタルゲインは追求しない

—— はじめに「DMM VENTURES」の発足経緯について教えてください。

村中 悠介(むらなか ゆうすけ)合同会社DMM.com COO / EXNOA(DMM GAMES) CEO
2002年にDMM.comに入社し、動画配信事業の営業担当を経て、事業責任者を務める。2011年に取締役就任後、アミューズメント事業、アニメーション事業など多岐にわたる事業を立ち上げる。 2017年11月サッカーベルギー1部リーグ シントトロイデンの経営権取得。2019年5月よりEXNOA(DMM GAMES) CEOを兼任。現在DMM.comの40以上ある事業を統括する。


村中:一昨年の秋ごろ、亀山会長とDMM.comの未来について話をしている際に「これまで関わりがなかった事業領域と、新たに接点をつくっていきたいね」という話になりました。そこで出た案が、若い起業家とリレーションをつくれるベンチャー投資です。

しかし、キャピタルゲインを狙った純投資は既存プレーヤーがたくさんいるので、私たちならではの付加価値を付け加えた“新しい立ち位置の事業”を展開したいと考えました。そこで生まれたのが、「DMM VENTURES」(以下、VENTURES)です。


 

—— 森さんは、いつ頃VENTURESに参画されたのでしょうか。

森 弘慶(もり ひろよし)COO室 / DMM VENTURES
2011年より株式会社Livestylesにて顧客開拓や大手企業とのアライアンス提携業務などに従事。2015年株式会社リクルートジョブズ入社後、企業の採用支援、人事制度設計などの業務に従事。2019年合同会社DMM.com入社、子会社の経営支援や新規事業立ち上げを経て、現在はDMM VENTURESでベンチャーへのマイノリティ投資やM&A業務のサポートにも従事。


森:2019年の7月です。元々ベンチャー投資に興味があったので、「VENTURESに関わりたい」と言い続けていたところ、異動させてもらえることに。それまでは、子会社の終活ねっとに出向し、僧侶手配サービス「終活ねっとのお坊さん」など、新規事業立ち上げに携わっていました。


 

— 「新しい立ち位置の事業」とのことですが、具体的にどのような点が「新しい立ち位置」なのでしょうか。

村中:VENTURES事業を運営する目的が、キャピタルゲインやシナジーの追求ではない点です。

一般的なVCの投資目的は、キャピタルゲインを得ることなので、必然的に伸びている市場に投資をしますよね。その結果、ニッチな事業領域にいるベンチャー企業はVCの目が届きづらく、投資を受けづらい傾向にあります。

一方VENTURESでは、マーケットのサイズや伸びの観点から、VCが投資をためらうような領域で戦うスタートアップ企業にも投資を行います。マーケット規模は小さくとも、市場に新しい風を吹き込むいい事業なのであれば、投資する。むしろ、弊社が気になってはいるけど、まだ参入を判断できないようなニッチな事業領域に、投資価値を見出している節もありますね。


 

村中:まず、上限1,000万円の出資。そして、事業におけるディスカッションを定期的に行っています。

私たち独自の強みはファイナンスの支援よりも、「事業家としてのアドバイスができる」点です。AIから農業まで毛色の異なる40以上の事業を運営する企業は、日本を見渡しても存在しません。そのポジションを意識した上で、投資家と事業家双方の目線で、事業づくりに関するノウハウを提供していきます。

また大前提として掲げているのが、「困ったときに頼れる相談窓口」になること。投資をする・しないに関係なく、連絡をもらえれば壁打ちをしたり、事業計画書の作成をサポートしたり、なんなり対応する方針です。

森:起業家にとってよりよいアドバイザーとなるため、CVCや事業会社の新規事業部の方々とのネットワーク強化も行なっています。VENTURESの投資先をCVC・事業会社に紹介して協業をサポートするケースや、資金調達の際に同伴して一緒に調達活動を行うケースもありました。

また過去には、VENTURES経由でM&Aの相談を受けたこともありました。私たちがM&Aをし、経営資源を投下することで大きく成長させられる可能性を感じた場合には、M&Aをこちらからベンチャーに提案する可能性もあります。もちろん提案を受けるかは、起業家の経営方針に一任しています。
気軽に相談できる上、豊富な事業経験を活かし、起業家が事業を伸ばすための選択肢を増やせる。さらに、場合によってはM&Aという事業成長の手段も提供できる。それが、VENTURESが起業家のみなさんに提供できる最大の価値だと思っています。

絵空事とアイデアには投資しない

—— ここまでは、VENTURESのビジネスモデルについて詳しくお聞きしました。次に、投資先の選定プロセスについて伺いたいです。

森:まずは私が応募者と会い、そこで投資する価値があると判断した場合、インベスターである村中と松本に15分程度のプレゼンをしていただき、その場で投資するかしないかをスピーディーに決めています。応募数は毎月20~30ありますが、そのうち、プレゼンに至れる企業は2~3社程度です。


 

—— 審査基準として、どのような観点を持っていらっしゃるのでしょうか。

森:私は「DMM.comの誰かではなく、その経営者に任せた方が効率的か」を重視しています。手前味噌ですが、弊社には、新規事業を立ち上げるための資金や事業づくりをけん引できる人材が揃っています。だからこそ、「DMM.comがやるよりも、あなたに任せた方がいい」と思った事業に、VENTURESを通じたサポートをしたいと感じますね。

 

村中:事業プランが、絵空事ではないかも重要です。優れたアイデアを持っている起業家は珍しくないので、実現可能性をより重視します。たとえば、「サービスを形にできるエンジニアはいるのか」「利益を上げられる目処が立っているのか」といった、実現する上での細かな事業設計で投資の諾否に差が生まれている印象です。

しかし、「成功する可能性が高いか」で投資を判断していないことは、覚えておいてほしい。難易度が高くても、頭の中で描いている絵が事業として再現される可能性があると感じられれば、投資対象になります。

また、不測の事態に対応できる泥臭さがあるかどうかも重要視しています。事業が想定通りに進行せず、仮に失敗したときにも、挫けずに泥臭い努力を続けられるか。有事の際の立ち居振る舞いを含め、人柄も投資基準に入れています。

迷わずフルスイングしてほしい

—— IPOやM&Aに向けた支援をしてくれるVCやCVCではなく、VENTURESから支援を受けるメリットは、どのような点になるのでしょうか。

村中:キャピタルゲインを求めるVCやCVCから投資を受け入れる場合、スピーディーに成長し、投資から5年程度の比較的短期間でEXITを求められるケースが多いと思います。一方、キャピタルゲインを目的としていない私たちは、投資した会社に対して、一定期間内にIPOやM&AといったEXITをすることを必ずしも求めていません。事業成長を第一に考えた時に、その手段がIPOやM&Aでなければしなくても構わない。

つまり起業家からすれば、期限がなく、中長期的な視点で事業に最も適した成長を優先することができます。起業家にとって大切なことは、短い期間のうちに、一つでも多くのチャレンジをし、一つでも多くを学ぶこと。私たちは、その成長機会を提供できる存在だと思っています。

また、起業家と投資家の目線を両方備えているので、客観的なアドバイスができると自負しています。「起業家にとって一番の相談相手」でいるために、あくまでもフラットな視点を持つように心がけていますね。

森:実際に、投資先からは「事業づくりのプロからノウハウをシェアしてもらえる点がありがたい」との声をいただいています。投資の可否に関わらず相談を受けている点も、プラス評価につながっているようです。


 

—— 「気軽に相談できる相手」であることが、VENTURESの特徴なんですね。立ち上げからから1年が経ち、事業の成長は感じていますか?

森:ありがたいことに、最近は問い合わせ数も増えています。また先日は、過去に出資を見送った企業から「とある企業から買収の打診があったのですが、この選択肢について森さんはどう思います?」と連絡がありました。気軽に、かつ買収といった重要な戦略についても相談できる相手として覚えてもらえていることが、とても嬉しかったですね。

とはいえ、まだまだアプローチできていない起業家の方が多いと思っています。今後はVCやCVCとのネットワークを強化し、積極的にコミュニティ内に入っていくことでVENTURESの認知を広めていければと思っています。

困ったときの“相談窓口”に

—— 今後VENTURESが目指す姿と、そのために解決しなくてはいけない課題があれば教えてください。

森:今後も引き続き、起業家が困ったときの相談相手になることが使命だと思っています。そのために、スタートアップコミュニティ内で信用を積み上げていくことが直近の課題ですね。

中長期的な目標は、DMM.com内で新規事業をつくる仕組みを根付かせること。若い起業家とのリレーションをつくり、ゆくゆくは一緒になって事業を生み出す体制を構築できればと思っています。


 

—— 村中さんが森さん個人に期待していることはありますか?

村中:スタートアップコミュニティの中に入り、より広い関係性をつくってほしいと思っています。今までDMM.comは、若い起業家と接点が少なかった。あるとすれば、会長がよくいるawabarが大半。しかし、いきなり会長に会うのは気が引けるかもしれないので、そことは別の窓口になってくれたら嬉しいですね(笑)。

森:私自身も、DMM.comに在籍するメンバーの中で、自分がもっともスタートアップに近い存在になりたいと思っています。


 

—— VENTURESとして、若い起業家に伝えたいことはありますか?

森:DMM.comは現在、40以上の事業を展開しています。ありとあらゆる領域で事業ノウハウが溜まっているので、事業づくりをする上で、何かしらお役に立てるはず。投資家だからといってあまり身構えず、まずは気軽に相談しにきてください。

 

村中:繰り返しになりますが、VENTURESの存在意義は新たな関係をつくり、起業家が困ったときの相談相手となること。投資を受けたからといって、過度なプレッシャーを感じずに、思いきってフルスイングしてほしいです。

私たちとしては、今まで接点のなかった起業家とつながりが生まれるだけで、十分に価値があります。共に歩み寄り、新たな価値を創造できれば嬉しいです。

 

構成:倉益りこ(モメンタム・ホース) 写真:高橋 団